やり直さないためにやり直しました。

院長の笹山です。

去年末に治療した患者さんのお話です。

出来上がった被せ物を装着する予約日だったのですが、ほんの僅かですが、被せ物のフィットが悪い所がありました。

このまま装着すると、何年か過ぎた後にそこから接着剤が漏れ出て、外れてしまったり、虫歯になる可能性がないともいえません。

そこで患者さんにお詫びして、再度歯型を取らせて頂いたのですが、再度の歯型も良い歯型が取れませんでした。

そこで更に2回目の歯型を取ったのですが、それでも100%納得出来る歯型を取ることが出来ませんでした。

「もしかしたら問題が無いかもしれないけれど、もし次回またフィットが悪かったら…。」

患者さんに「何度も申し訳ないのですが、100%納得できるレベルの歯型が取れませんでしたので、もう一度だけ取らせてください。」とお願いして、この日3回目の歯型を取りました。

そして3回目でやっと100%満足できる歯型が取ることが出来ました。

この時点で治療時間は1時間ほど経過していました。

歯医者の治療の中で歯型取りは、患者さんにとって苦痛な部類に入ります。

口の中の歯型採りの材料が入って、固まるまで最低3分(当院は7分)は動けないですし、呼吸もしづらいです。

今日は歯が入ると思って歯医者に来たのに、歯は装着出来ず、歯型も3回取り直す。

普通でしたら「この先生、技術大丈夫?」と思われたり、お叱りを受けてもおかしくなく、信頼を失ってしまう可能性さえあります。

ですので歯科医側も歯型の取り直しを何度も提案するのは、とても心苦しいことなんです。

それでも再度歯型を取り直すことをお伝えした時、患者さんは快く「大丈夫ですよ。」と言って下さいました。

3回目の歯型を取り終えた時には「納得できる歯型は取れましたか?」と言って下さり、私が納得できる歯型だったことお伝えすると「良かったです!」と言ってくださいました。

お帰りの際には受付で「先生、皆さん、長時間ありがとうございました。」とまで言ってくださいました。

本来ならば、去年末に歯が入って、年末年始のお食事を快適に過ごせるはずでしたので、申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、温かい対応をして下さり、本当に感謝しています。

同じ歯型を取るにしても、歯の位置やお口の状態によって、簡単な歯型取りと難しい歯型取りがあります。

今回は色々な条件が重なり、難しい型取りでしたが、さすがに3回も歯型を取るというのは数年に1度のことで、プレッシャーと緊張で神経をすり減らしました。

長持ちする詰め物やかぶせ物を作るために、歯型の精度というのは本当に大切で、そこを少しでも妥協してしまうと、結局数年後にやり直しになるなど、もっと大きな問題が起きる可能性があります。

そうなってしまうと患者さんには歯型を取り直すことより、取り返しのつかないご迷惑をおかけすることになります。

当院では製作段階で必要だと判断した時は、躊躇せず患者さんにお話して、やり直しや手直しをさせて頂いています。

「やり直さないためにやり直す。」

これからも続けます。

 

カルテ整理をしていて感じたこと

院長の笹山です。

年末年始と年明け最初の連休を使ってカルテ整理をおこないました。

カルテの保存期間は法律で5年と決まっており、保存期間を過ぎたカルテは整理していかないと溜まる一方で、医院に保管するスペースが無くなってしまいます。

カルテを整理するなかで、保存期間をとうに過ぎている昔のカルテが入った保管ケースをいくつか発見しました。

飛び飛びですが、平成の初期だったり、古いものでは昭和50年代のものもありました。

カルテというものは治療の記録だけでなく、患者さんの保険証の情報も記載されています。

当院には先代の頃から通われている高齢の患者さんが多くいらっしゃるのですが、その方々が過去にどんなお仕事をしていらしたのかが、カルテの保険証欄を見るとある程度分かります。

「あの方、学校の先生だったんだ。」とか「あの企業にお勤めだったんだ。」「看護師さんだったんだ。」などです。

そんな感じがするなぁと思う方もいらっしゃれば、失礼ながら意外だなと感じる方もいらっしゃいました^^

皆さん仕事を何十年も続けられて、今のお姿があります。おじいちゃん、おばあちゃんの患者さんとしてだけでなく、人生の先輩としての尊敬の気持ちを忘れてはいけないとあらためて感じました。

こんな経験を思い出しました。

私がまだ勤務医だった時、20代の終わりくらいの話です。

勤務先で高齢者の男性患者さんに叱られたことがあります。

「説明が足りない。年寄りだと思って説明をはしょるんじゃない!」

自分では普通に説明したつもりだったのですが、どこかで「おじいちゃんの患者さんだから…細部まで詳しく説明しなくてもいいんじゃないか。」と思っていたのかもしれません。

後で院長先生に「あの患者さんは、昔会社経営をされていて、それなりの立場にあった人だから、そういう接し方は良くない。」と叱られました。

そんなことで、高齢者の方をおじいちゃん、おばあちゃんではなく、人生の先輩として接することの大切さを知りました。

もちろん、おじいちゃんやおばあちゃんとして接したほうが、患者さん自身が楽な場合もありますが、そうでない場合もあるということです。

カルテ整理の話に戻ります。

カルテは大きなみかん箱12箱分くらいを休診日を4日間利用して整理しました。

重さにして何キロでしょう。多分全部合わせて、60キロぐらいあったと思います。整理が終わって、なんとなく医院が軽くなったような気がします。

普段使わない筋肉を使ったので足腰が筋肉痛で2,3日痛みましたが、カルテ整理をして、心も整理された気がします。

患者さんにご指摘いただき改善したこと

院長の笹山です。

今年も細々とブログを書いていきます。

今回は患者さんにご指摘いただき改善したことの話です。

いきなり話は変わりますが、私は去年から、ほぼ全ての治療においてメガネタイプのルーペ(拡大鏡)を装着して治療しています。

こんな感じです↓

ルーペを装着すると、歯やお口が拡大して見えますので、正確な診断や精度の高い治療が可能となります。

たとえば、ルーペを使うと、歯がよく見えるので虫歯が発見しやすくなり、虫歯を治療する時も健康な歯を削らずに虫歯だけを綺麗に取りきることが出来ます。

小さな穴の虫歯を削ると、神経ギリギリまで到達する虫歯だったケース↓

ルーペは今までも要所要所で使っていたのですが、去年からは例外を除いてほぼ全ての治療に使っています。

その理由は…

実は私が担当した患者さんから、歯石を取り残していたことをご指摘いただいたことがありました。

確認させていただいたところ、確かに取り残しがありました。

私は元々目が良いほうで、普段は裸眼で過ごせるくらいですので、歯石取りに関してはルーペをほとんど使っていませんでした。

自分の視力を過信していたのだと思います。

やはりこういうことではいけないと思い、歯石取りにもルーペを使うようにしました。

それからは、一部の治療だけでなく、被せ物の調整や、歯型採りなど、今まで使用しなかった治療においても、使用するようになり、結局ほぼ全ての治療に使うようになりました。

使用頻度がどんどん増えた理由としては、やはりどのような治療においてもルーペの方が良く見えると実感したからです。

3年くらい前まではルーペを長時間使うと、頭がクラクラしたり、目が痛くなったりすることがあったのですが、今はその時と同じルーペを使っても、そんなことはありません。

やはり「もうルーペを使わないとダメだよ。」ということなんだと思います。

実は、年配の歯医者さんの引退理由で意外と多いのが

「目が良く見えなくなった。」

なんです。

人間ですので、視力も年と共に衰えていきます。日常生活での視力に問題はないのですが、歯医者の仕事は、数ミリ単位、細かくはミクロン単位の仕事です。

元々、光が届きにくく、暗く狭いお口の中で「良く見えない。」というのは歯科医にとって致命的なことです。

「見えなくなる」という、キャリアを積んだ歯科医なら誰もが直面する問題をルーペで補うことが可能な時代になりました。

更に高倍率のルーペを使用すれば、”補う”以上の効果があります。

高倍率ルーペは肉眼では見えないものを見ることが出来ます。

そこで新たに高倍率のルーペも導入しました。

カールツァイスという一眼レフやビデオカメラ、双眼鏡に使用されるレンズメーカーのルーペで倍率は8倍です。

もはやルーペといいますか、メガネに双眼鏡をつけたような外観になっています。

レンズ部にかなり重みがありますので、ただメガネをかけるように装着しただけですと、鼻の下にずり落ちるので、後ろの紐でしっかり後頭部に固定し、耳の後ろにゴム製の引っ掛けをつけなければなりません。

こちらの8倍モデルは今は製造中止になっており、特注でも5倍までしか販売していません。

その理由は、倍率の高いルーペは扱いが難しく需要が無いからだそうです。

なぜ高倍率のルーペだと扱いが難しくなるかといいますと、倍率が上がると、よく見えるようになる反面、ピントの合う範囲が狭くなります。

この8倍ルーペではピントの合う範囲は1㎝ぐらいなので、術者の顔が少し動くとピントが合わなくなり、視野がぼやけます。そんな感じですので、使いこなすには結構な訓練が必要そうです。

ですので、こちらのルーペは、今のところ、従来のルーペでは確認しづらい部分を確認するために使用しています。

たとえば、歯のヒビの有無や、細かい虫歯の取り残しの有無、歯の根の治療の際の根管の確認など肉眼では確認しづらい部分です。

この8倍のルーペのレンズを通して歯を見ると、どんな感じに見えるかといいますと、1本の歯は岩のようにそびえ立って見え、肉眼では見えない歯の凹凸や細かい溝など表面性状が見え、歯ぐきをみると、細かい毛細血管まではっきり見えます。

とにかく良く見えます。

少しずつこちらの8倍ルーペの使用頻度も増やして、より良い診断や治療に繋げられるようにしたいと思います。

以上「患者さんにご指摘いただき改善したこと」でした。

今回もご覧いただきありがとうございました。